小田島雄志

ぼくの翻訳したシェイクスピア全作品を読んでいく講座が開かれている。 演劇を専門としない一般社会人の方々が集まり、声に出してシェイクスピアを読む。それを指導しているのはシェイクスピアの舞台に正統派の役者として取り組んできた平澤智之くんだ。
思えば、ぼくがシェイクスピア全37作品を翻訳したのも、ちょうど今の平澤くんの年頃だったが、あの頃のエネルギーは凄まじかった。シェイクスピアに取り組む意欲的な若い世代が育ってきていると感じ、期待は大きく膨らんでいる。
平澤くんと受講生のみなさんによる朗読劇の公演「シェイクスピア・ライヴ」にこれまで毎回伺っているが、そこにはプロアマを越えたシェイクスピアの世界が存在し…本物の感情を伝えている。
ぼくも平澤演劇アカデミーの今後の発展を共に見守っていきたいと思う。そうだ、この機会に、もう一度、翻訳したときのように、気持ちを声に出して、シェイクスピアを読んでみようか・・・。

ぼくとどちらがシェイクスピアを深く楽しんでいるか? 生きる楽しみもさらにこれから増すばかりだ。

小田島雄志

1930年、旧満州生まれ。英文学者、演劇評論家。
東京大学英文学科、同大学院修了。
シェイクスピア全集により、1980年度芸術選奨文部大臣賞受賞。
翻訳と評論により、1995年紫綬褒章受章。2002年、文化功労者に選ばれる。
現在、東京大学名誉教授。東京芸術劇場名誉館長などを務める。著書、多数。